雨宿りのためにふらりと入った居酒屋のテレビで、アナウンサーが大雨警報を知らせているのを聞いた。
雨が止んだら帰るつもりだった。しかし、夕刻から降り出した雨はいつまで経っても収まる気配を見せず、店を出るタイミングを失くしてしまった。
だが、それは自分への言い訳だったのかもしれない。彼との「記憶」の詰まったあの部屋に、帰りたくなかったというのが本音だったのだろう。
半ばやけになって杯を空け続けていた時は良かったが、そのツケで今は鳩尾のあたりが気持ち悪い。あれだけ飲んで、尾を引かないはずがない。頭痛がないだけ、まだマシだ。不快感に眉を寄せながら無意識に寝が入りをうち、頬に触れた感触に違和感を覚えた。
「ここはどこだ……?」
柔らかなスプリングの利いたベットでおもむろに体を起こした横澤隆史は、見たことのない室内の様子に、眉間の皺を深くした。自宅でなければ、友人の部屋でもない。いかにもビジネスホテルといった風情のシンプルな内装だ。しかし、ホテルにチェックインした覚えはない。止まない雨のせいにして、居酒屋に居座り続けていたはずだ。
「……思い出せん」