といっても、私はどうやらイレギュラーな存在の吸血鬼のようだ。


心臓も動いているし、身体だってあたたかい。


それに、特に吸血衝動がある訳でもないのだ。


ただ私は、他人の血を口に含むと、その人の持っている悲しみや苦しみの塊……『負』の感情を吸いだすことができるから。


そのためだけに、血を吸っている。


自分の『負』の感情に――サクヤ先輩の場合は、リタさんへの恋心からくる独占欲に――負けて暴走した人たちを、正気に戻すためだけに。



「……セリナ」



私のサポートをしながら一部始終を見守っていたクリュウは、私の側まで来ると、そのまま正面から抱きしめてきた。


その暖かさに触れ、知らず知らずのうちに両目から涙が零れはじめる。



「……クリュウは、あったかいね」


「当然だろ。俺様も、それにお前も、生きてるんだからな」


「……うん、そうだね」



私はそう応えながら自分の胸元を探ると、制服の下に隠していたペンダントを取り出した。


そこには、淡く光る丸い石がぶら下がっている。


――《龍玉》。


これは龍と契約している証であり、クリュウと私の魔力が固まってできた特別な石でもある。


しかし、いつもなら明るい黄金の光を放つはずのそれには、黒い色が混じっていた。