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「……むかしむかし、森の奥に吸血鬼が住んでいました」



戦いの余波で、大量の種類が散らばる生徒会室。


その床に座り込んだ私は、壁に寄りかかりながら小さな声で物語を諳(そら)んじる。



「森の奥で、吸血鬼は人々の血を吸いました。

血を吸われた人々は、吸血鬼のワナによって感情まで奪われてしまいました。

危機感を感じた他の人々は、みんなで吸血鬼を倒しに行きました。

吸血鬼は抵抗しましたが、最後は殺されてしまいましたとさ」



……語り終えた私は、窓ガラスに映る自分の姿を見て自嘲気味に微笑んだ。



「……この話を作った人も、まさか想像してないだろうねぇ。

その吸血鬼が、今もここで生き延びてるなんて……さ」



私はそう呟きながら、口の端から零れる唾液混じりの血を乱暴に袖で拭った。


ちなみに、この血は私のものではない。


指先を私に噛まれ、急激に血と――その中に含まれる魔力を失って気絶した、サクヤ先輩のものだ。


……そう。
私の正体は、普通の人間なんかじゃない。



人間の敵である、魔族の一種――吸血鬼なのだ。