■5■



今度こそ背を向けて去っていくリョウ先輩を、私は止めることができなかった。



冷たい視線が怖かった。


冷たい言葉が怖かった。



それは、かつて村のみんなから向けられた『敵意』と重なってしまうから。



「……ごめん、なさい」



呟いた言葉が無人となった階段にぽたりと落ちる。


無意識にピンク色のキーホルダーを握りしめ、私は小さくため息をついた。



***



翌日は、何をやっても最悪な一日だった。


明け方まで考え事をしていたせいで遅刻しかけたり、苦労してこなした宿題を寮の机の上に置いてきたり。


そして、極めつけは――



「リョウ先輩っ!わ、私、ずっと憧れてて……これを受けとってください!!」


「ありがとう。確かお前は……一年のマリエージュか?武器がレイピアの」


「っ、覚えててくださったんですか!?感激です!」



……こんな光景を、一日のうちに5回も見かけていることである。