「……セリナ?どうしたんだ?」



不思議そうに名前を呼ぶヒース君に返事をする余裕さえなく、私はリョウ先輩の……その冷やかな表情を見つめる。


その強い視線に、胸の中で不安な気持ちが膨れ上がった。



「――リョウ先輩ッ!」



居ても立っても居られなくなった私は、ヒース君に一言謝るとそのまま全力で走り出した。


しかしそれを見た先輩は、不意に踵を返すとそのまま階段を上がっていってしまう。



「待って、せんぱ……ッ!!」



私は寮のエントランスホールへ駆け込むと、そのまま先輩を追って階段を駆け上がった。


何故かは分からないけれど、今はそうしなければいけない気がした。


……しばらくすると、赤い髪をかく小さな後ろ姿が見えてきた。



「リョウ先輩ッ!」



名前を呼ぶと、階段を上っていたリョウ先輩の足が止まった。


それになぜか安心した私は、その場に立ち止まると息を整えながら言葉を紡ぐ。



「あ、あの、ヒース君とは、出かけた先で偶然会っただけで!だからそのっ、」



……言葉にしてから、自分は何を言ってるんだろうと思って愕然とした。


私が誰と会っていようが、誰と出かけようが、先輩にとっては関係のない話のはずだ。


いきなりこんな事を言われても、きっと迷惑に違いない。



(それなのに――なんで私は、こんなに焦っているの?)



自分で自分が分からず、私は思わず黙り込む。


すると、今まで黙っていたリョウ先輩がはじめて振り向いた。


その様子を、下から見上げていた私は――直後、息を詰まらせる。



「――それで?」



振り向いたリョウ先輩の表情は、かつて一度も見た事がないほど冷たいものだった。