「こーうーちゃん!あーそーぼ♪」

調子外れな声が玄関先で響く。

宿題もそこそこに、俺は走って玄関へと向かった。

「耕介!走らないの!」

母さんの声なんて無視して、俺は慌てて靴を履いた。

「千秋!早く行こう!母さんに捕まっちゃうよ!」

「うん!ごめんねおばちゃん!こうちゃん連れてくねー!」

俺は頭一つ背の低い女の子と共に、元気よく夏空に走り出していった。




はっきりした記憶に残っているのは、小学校低学年の頃だ。

気がつけば、彼女は常に側にいたように思う。

矢崎千秋。

俺より三つ年下の女の子。

家が近所って事もあり、しょっちゅう顔を合わせていた。

といっても、近所には年上の男友達や同級生も大勢いた。

そんな中で、確実に毎日俺のそばにいるのは千秋だけだった。

「こうちゃん、昨日の子また来てるかな?」

よく日焼けした、活発そうな表情。

くるくると元気よく動く瞳で、千秋は俺を見た。

俺の名前は「織田耕介」なので、近所のおばちゃんや千秋のお母さんは「こうちゃん」なんて呼んでいる。

千秋もそれに習って、俺の事は「こうちゃん」と呼ぶ。

「来てるかもな。今度こそやっつけないと」

千秋の手前、俺はよく偉そうぶって言っていたのを覚えてる。