「もうすぐ着くのかな?」
優羽は輝きを放つ陸地の方を見ながら必死に笑う。
笑顔なんて得意じゃなかった。
けれど紫音に少しでも可愛く見られたくて、毎朝鏡の前で練習した。上手に可愛く笑う練習を。
こんなところで役立つなんてあの頃の自分はきっと思っていなかった。
————最後は笑顔で。
それは決めていたことだった。
でもそれは別れの時じゃない。告白する時のつもりだった。
「——今日はありがとう」
(——今日までありがとう)
ねぇ、気付いてる?
この言葉の意味——
思いとは裏腹に優羽は柔らかく微笑む。
真意を悟らせないように。
それと、精一杯自分を美しく見せて。
いつまで経っても思い出せるように。
貴方が思い出してくれるように。
一瞬でも優羽を選ばなかった自分を後悔してくれるように。
……なんて自分に高望みしすぎだよね。
自嘲する声が自分の心を占めていく。
貴方の前から消えようとしている人間なのに。
潔く消えるつもりだったのに。
貴方が好きすぎてそんなこともできやしない。
でも拒まれるのが怖くて、好きだとも言えない。


