こんな能力(ちから)なんていらなかった



 教室の床に浮かび上がる光の筋。それは止める間も無いほどの速さで大きく広がる。その線は教室の空間を超えて広がった。


 空気が薄くなるこの感じ——

 
 その時男達がなにをしようとしているのか理解した。



 まずい。



 それだけが優羽の頭に浮かんだ。


 こんなの想定外だ。

 男達は校舎を丸ごと結界で覆う気でいるのだ。

 普通であればあり得ない。そんなことできるはずがない。


 


 しかし、結界が完成してしまえばその中の人間は外に逃げる術はない。



——どうすれば……



 窓の外を咄嗟に見た優羽は見えたものに目を見開く。

 何かがこの教室に向かってすごい勢いでとんできているのだ。


ガッシャーン——……


 ガラスが粉々に砕け散ったその瞬間、窓の向こうに透明な壁が出来たのが見えた。


 そして飛び込んできたエンジ色のそれはにゃぁと泣いた後、優羽の前に立った。


「なんだ——?その猫は」


 男が眉間に皺を寄せながら問う。


「奈々……」


 優羽がそう呼びかけると奈々は一瞬で人間に化けた。


「来てくれてありがとう……」


 優羽は奈々の頭をくしゃっと撫でる。