こんな能力(ちから)なんていらなかった



「……どう?痛くない?」
 
「うん、ありがとう」


 心配する葵に優羽は笑顔で微笑む。


「でも危ないから下がってて?もうすぐ札が剥がれるから」


 そう。男達の足止めのための札はもう半分以上剥がれてしまっている。

 こんなことになるって知っていたら、もっと札を作っておいたのに。
 最近油断しすぎだった。


「……隙を作るから葵は皆を教室から連れ出して」

「……隙を作るって、どうやって!?千秋もないのに!」

「何も考えずにやって」

「でも!」

「——いいから!!!」


 声を荒げた瞬間、それはペラリと剥がれ落ち、音も立てずに床に落ちる。


「こんなもので我々を封じ込めようだなんて、無理に決まっているでしょう?」


 ドヤ顔を極めた男に、そんなん最初から分かってるっての!と心の中だけで叫ぶ。
 そんな叫びが届かないのは当たり前で、男は憎たらしいほどいい笑顔を浮かべた。


「まぁいいでしょう。私達が本物の結界ってものを見せてあげます」


 男は言いながら床に向かって手を翳した。
 話していた男だけじゃない。他の男達もだ。