こんな能力(ちから)なんていらなかった



 その前になんとかして、クラスメイトを逃がさなければいけなかった。

 だが、足に力が入らない。


「優羽……!!!」


 倒れたままの優羽に葵が駆け寄ってくる。
 葵は優羽の肩から溢れ出す血を見て、顔を青くした。


「血が……どうしよ、とまんない」


 葵は優羽の傷口をハンカチで強く押さえながら泣きそうな声で言う。


「……大丈夫だよ。だからそんな顔しないで」


 大好きな葵にそんな顔させたくなくて優羽は全ての力を足に込めてゆっくりと立ち上がる。
 そしてブレザーとカーディガンを脱ぐとワイシャツの袖を引き千切った。


「ごめん、自分じゃ出来ないから葵縛ってくれる?」

「え、あっ、うん……!」


 葵は優羽の手から袖を受け取ると左肩にその布を巻きつけた。
 巻きつけられた時、少し、いや、かなり痛んだがそこは気合で乗り越えた。


「——で、長谷川君」


 優羽は後ろで尻を床につけ、放心していた男子生徒に向かって顔を向ける。


「もう挑発するようなこと言うのやめてね?死にたくないでしょう?」


 男子生徒は、勢い良く首を縦に振った。