こんな能力(ちから)なんていらなかった



「……でも、あれ?なんでangelicがフィリアム様の名前を呼んだの?」

「それは——」

「優羽がフィリアム様に瓜二つだからだよ」


 突然聞こえてきた低い声。

 この部屋には自分達しかいないはずだ。


 優羽は瞬時に振り向く。
 が、男の顔の近さに変な声が出た。

 ソファの背もたれに肩肘をついた男は、優羽から二十センチの距離でニコニコしている。


「久しぶり、優羽。元気だったか?」

「……?」


 優羽が神経を尖らせているのに対し、紫音は優羽の身体を抱き寄せてからはぁと溜息をついた。


「ふざけるなよ唯斗」

「俺に雑用を頼むのが悪い」


 どうやら二人は友人らしい。
 優羽は紫音に抱きしめられながら警戒を解く。


 紫音が唯斗と呼ぶその男は向かいのソファに腰掛けると、ニッコリ笑った。


 紫音はかなりの美形だが、この男も中々の顔立ちをしている。
 紫音はどちらかというと美人だが、この男は男らしい格好良さを持っていた。


 そんな男がジッと自分の顔を見てくるので優羽はソワソワと身体を揺らす。