こんな能力(ちから)なんていらなかった




「言うつもりなかったのに……、くそ」


 優羽はいつも自分の予想を上回ってくる。


 紫音は優羽を抱きとめたまま立ち上がると、一瞬考えた後優羽の服を脱がせ始めた。

 優羽の体は想像通り綺麗だった。
 無意識のうちに優羽の柔らかな唇を撫でるが、優羽は眠っている。眠ってる女に手を出すような男にはなりたくないものだ。

 紫音はなるべく見ないようにして優羽の胸元に手を置くと、傷の部分を光で包む。

 かなり深く抉っていたらしく、治るのには時間がかかった。

 傷が跡形もなく消えると、紫音は手を離しシャワールームに連れ込み、体を丁寧に洗い流してから、タオルで包んでベッドの中に連れて行く。

 そして起こさないように最深の注意を払いながら優羽に服を着せた。


 そしてもう一度洗面所に戻る。
 残っていた血の跡を丁寧に拭き取り、優羽の着ていた服を拾い上げると袋に入れてからゴミ箱に捨てた。

 それから諸々の事情を済ませて部屋に戻ると優羽はぐっすり眠っていた。
 すやすやと眠る優羽の顔を見ながら紫音は溜息をつく。


「人の気も知らないで…………」


 結局言ってしまった。
 あんなに言わないと決めていたのに。