こんな能力(ちから)なんていらなかった




 次の日、山は朝から騒がしかった。

 風もないのに森が、山が、ざわめいていた。



 その騒ぎが治まった刹那。

 静かな山の中に一発の銃声が響いた。


 続けてもう一発。二発。



 異変を察知した仲間と共に山の見回りに行った流は、嫌な予感を。


 すぐに音の発生源は見つかった。

 仲間の声に呼ばれ、向かった先にあったものは最悪のもの。





転がる岩

滴る真紅の水

白い細腕

狂おしいほどの甘い香り

散らばる艶やかな黒い髪

そして、鮮血に浮かぶ鴉の黒い羽




 崖下で岩と共に転がっていたのは変わり果てた優羽の姿だった。




 そこから先は全てが断片的で。

 優羽が目を覚まさない間、あの銃声の正体を探し。

 優羽を崖の上から突き落とした人間を探し。

 何も分からないまま一ヶ月が過ぎて。

 二ヶ月が過ぎて。

 優羽が目を覚まして。



 優羽は優羽でなくなっていた。



 優羽の中に自分達の知る優羽はいなくなっていた。