こんな能力(ちから)なんていらなかった



 むぅっと頬を膨らますと優羽は盃の中を見つめた。


『……どんな奴だ?』

『————優しい、人かな』


 優羽はポツリポツリと答える。


『……最初は近寄りたくなかったんだけど、すごく優しくて、いつも私のこと守ってくれて、…………とにかく好きなんだ』

『そう、か……』

『なんか照れる』


 優羽は頭をポリと掻く。


『そいつは——……』

『なに?』


——黒髪なのか?


 そう訊こうとしていた声は何故か出なかった。


 優羽はその夢を忘れている。

 それを訊いても意味がない。


『いや、何でもない……』


 なにより、自分がそのオウジサマとやらである可能性を聞きたくないと思っている自分がいた。


『変なの』


 優羽は不思議そうな顔をした後、優羽を呼ぶ奴の元に話に行った。

 笑顔で再会を喜ぶ優羽の後ろ姿。




 その姿をぼんやりと眺める。

 そこに何故か黒いものを見た気がした。



 もしかするとこの時既に嫌な予感を感じていたのかもしれない。