幼少の頃の源義経の話を始めた大天狗は優羽が既にいないことには気がつかずに話続けている。
『流、あの話止めてきてよ』
『……無理に決まってる』
優羽は流の持っていた徳利をひったくると盃ギリギリまで酒を注いだ。
『夏休みは来週からじゃなかったのか?』
『イレギュラーな仕事が入ったの。明日の午後には東京に戻るよ』
『……そうか』
優羽は一口で酒を飲み干すと、もう一度自分で注いだ。
優羽は幼い頃からこうやって宴会で酒を飲んでいたからか、かなりの酒豪になってしまった。
元からの素質もあったろうが、今はもはやザル。
蟒蛇だ。
水のように酒を飲んでいる。
司は脳の発達上よろしくないと小言を言うが優羽が気にすることはなかった。
『さっきの話なんだが』
『……聞いてたの』
『聞こえてきたんだ』
優羽は恨みがましい目を流に向ける。
『仕方ないだろ……』
流は苦笑でその目をやり過ごすしかなかった。
『じゃあ、訊かないでよ』
『気になったんだから仕方ない』


