こんな能力(ちから)なんていらなかった




『なんで言わなかったんだ?』

『だって、流達だって妖じゃん……いい気はしないかなと思って……』


 優羽は申し訳なさそうな顔を見せた。

 この時は小学生。
 もう舌っ足らずな喋り方はしなくなっていた。

 そして、夢の話も。

 もうすっかりと幼い頃の夢の話は忘れてしまっているようだった。


『……気にすることはない。我等とて無闇に人を襲うことは好まない』

『だと嬉しい』


 大天狗の言葉に優羽は顔を綻ばせる。

 まだまだあどけない笑みを見せる優羽に流は安堵の溜息をついていた。


 まだまだ子供。

 幼い頃から見ていた妹のような存在。


 それだけが流の理性をもたせていた。


 そんな優羽が変わったのは中学に上がったその年のことだった。


 一年振りに見た優羽は以前と雰囲気が変わっていた。

 皆が分かるほど明らかに。


 まだまだ姿は幼い。

 だが、たまに見せる表情に女が見え隠れしていた。


『なんだ——優羽男でもできたか?』

『ぶふっ……』


 優羽は豪快に飲んでいた酒を吹き出す。

 その酒の飛沫は虹を作り、大天狗の横に控えていた司の眼鏡を汚した。