こんな能力(ちから)なんていらなかった



『よいではないか、死なないだろう?』

『人間を死なせたとなれば我等の名折れですからね!』

『そうではない』


 変なことを言う大天狗に司は顔を上げる。

 大天狗は優羽に手を伸ばし、顔を撫でていた。


『この子はもうただの人間ではない、儂の子も同然』

『——っ』

『そんな仲間をお前らが殺せるはずなかろう……?』

『——……』

『これも何かの縁だ……なぁ優羽?』

『……っ、貴方には敵いませんね』



 その日を境に優羽はよく山に遊びに来るようになった。

 最初は敬遠し、よく思っていなかった若衆も優羽の人懐っこさと可愛さにほだされて、夏が終わる頃には皆が優羽と呼んで可愛がっていた。



『ねぇ流っ!』

『なんだ?』


 流は若衆の中でも若い方だったため、比較的早くに優羽に慣れた。

 優羽も一番懐いてくれていたと思う。


『私ね、また夢を見たのー』

『飛ぶ夢か?』


 優羽はよく自分に羽が生え空を飛んでいる夢を見るのだという。

 羽の名を持つためかもしれない。


 だが、今日は違ったらしい。


 優羽の顔は今迄と違い、キラキラと目を輝かせていた。