こんな能力(ちから)なんていらなかった



 大天狗には丁度良くても五歳に満たさないかぐらいの子供には大きすぎる。

 子供は両手で一生懸命その巨大な盃を抱えていた。

 そして大天狗はとぷとぷと酒を注いでいく。縁ギリギリまで注ぐと大天狗は優羽に笑いかけた。


『飲んでみるか?』

『いいの!?』


 目を輝かせた優羽の腕を司が止めた。


『いけません!鞍馬様!あなた様が口を付けた盃で酒を飲み交わす……それが一体何を意味するか!!』

『だから五月蠅いと言っている——』

『私は鞍馬様のお目付役として!』


 優羽は怒る司と笑う大天狗の間でオロオロと首を交互に横に向ける。


『……飲みたければ飲むがいい』

『君、やめなさい!』


 司が優羽の手から盃を取り上げようと手を伸ばす。

 その瞬間優羽はその盃を煽った。


 一気に真っ赤になった優羽はそのまま倒れこんだ。


『……ふむ、少しキツかったか』

『少しどころではありません!この酒がどれだけ度数が高いのか……!下手したら死ぬところですよ!!』


 若衆を集めて治療に専念する傍で、大天狗は司に怒鳴られ嫌な顔をする。