こんな能力(ちから)なんていらなかった



 クシャッとなったエプロンを見下ろした流は手で顔を覆う。


——大切にしてねっ


 このエプロンをもらった時の優羽の顔が思い出される。
 まだ自分が御殿にいて、厨房でよく飯を作っていた時。優羽がくれたのだ。
 流にはこの色が似合うね、と言って。

 感情のままに投げたことを後悔した。
 顔を歪ませると流は優羽がやっぱりよく似合う。と笑った真っ黒なエプロンを拾い上げた。

 そしてそのエプロンを瞼に押し付ける。


「…………るに、決まってんだろ」


 優羽があの男に惹かれてることなんて。


「ずっと前から知ってた……!!」



 優羽と初めて会ったのは今から十年前——

 まだ優羽が五歳の時だった。


 鞍馬の大天狗の元で連夜酒を飲み交わしていたある夏の日の夜。

 突然幼子が現れた。


 大きな目が印象的な小さな子供。


 その子供が悠然と酒を飲む大天狗の目の前に立っていた。


 一瞬皆がその幼子に見惚れた。


 その姿にではない。

 幼子の持つ魂の強い輝きに、目を奪われたのだ。



その場にいるだけで世界が光り輝く——



 それほど強い魂をその幼子は持っていった。


『どこから来た——』


 大天狗が一言発した時、そこにいた天狗達は一斉に身構えた。