「——で?」
自分が粥を作っている間、後ろでずっとだんまりを決め込んでいた奈々が突然口を開いた。
「で、とは?」
「いつになったら優羽に謝るの?」
流は鍋の火を弱火にすると押し黙る。
「元々わかってたんでしょ?」
足をプラプラさせながら、奈々は流に問いかける。
「自分が誰かの身代わりだってことぐらい」
無言で背を向け続ける流に奈々はわざとらしい溜息をついた。
「……諦めきれないのは分かるけど、惚れてんなら優羽のこともっと考えてあげたら」
とんっと軽快な音がする。
奈々が腰掛けていた流しから降りたのだろう。
自分の後ろでガチャガチャと耳に障る音を立てていたかと思うと、その音は不意に止んだ。
そのまま奈々は立ち去ろうとした。
「……どこへ行く気だ」
思わず奈々の方に顔を向けその背中に訊いてしまう。
「水を取りに行ってくるの」
奈々は持っていた空のペットボトルを見せつけるように掲げると、そのまま台所を出て行った。
誰もいなくなった部屋では鍋の中からくつくつという音が聞こえるばかりだ。
流は火を消すとエプロンを外し、それを床に投げつけた。
「クソッ……!!」
エプロンに当たったところで気が晴れはしない。


