こんな能力(ちから)なんていらなかった



 流は優羽の顔を一度も見ずに、静かにおはようと呟いた。

 そして、そのまま皿に料理を盛り付けキッチンを出て行く。


 その間、流が優羽のことを見た回数はゼロ回。


 優羽は打ちのめされた思いでその後をついていく。
 優羽の足取りは重い。


 リビングに着くと流と奈々はもう座っていた。


 奈々はおはよう、と微笑む。

 けれど、流は全く優羽の顔を見ない。


 今迄こんなことなかった。


 無言で食べ進めていく流。

 そして一人さっさとご飯を食べ終わると自分の部屋に引き上げた。


「……優羽」


 奈々が躊躇いがちにそっと優羽の名前を呼ぶ。


「私、やらかしたよね……」



 毎日必ず振り向いて笑顔で挨拶を返してくれた流はもういない——


 そう悟った時、優羽の頬を一筋の涙が濡らした。



「——……なんで」


 あの時、私はあんなことを言ってしまったのか——


 流に向かって叫んだのは取り返しのつかない言葉だったのだと今更知る。

 流がどうしてあんな態度を取るかは分からない。

 が、原因だけははっきりしている。



 後悔が押し寄せる。



 後悔は先にくるものではない。

 そして今回のことは後悔しようもない。
 あの状態ではどうしようもなかった。


 今となってもそう思う。