こんな能力(ちから)なんていらなかった



 どうせ今日は眠れない。

 だったら一晩頭を整理する時間に当てたって構わないだろう。


 暗闇が怖くて、優羽は立ち上がって電気をつけた。

 廊下に漏れる光に気付かれないようにドアもぴっちり閉めた。


 目覚ましの秒針の音だけが聞こえる。

 その音は妙に優羽の心を騒がせた。
 意味もなく焦りが込み上げる。


 枕元の目覚まし時計を手に取ると優羽はそれをタオルで簀巻きにした。


無音。

静寂。


 音のない空間でジッとしていると、やがて空が白み始めた。

 呆然と窓の外を眺める。


 こんなにも夜が短いと思ったのは初めてだった。


 大分日が昇った頃、優羽は流のいるであろうキッチンに向かう。

 昨日のことを謝るために。

 頭の中はまだ整理できたとは言い難い。
 しかし、謝罪を先延ばしにするためのこれと言った理由が見つけられなかった。


 今日も何時ものように流は朝ご飯を作っていた。


「——おはよ!」


 わざと明るめの声を出す。

 昨日の雰囲気を吹き飛ばせるように。



きっと流も同じように返してくれる——



 そう思っての挨拶だった。