こんな能力(ちから)なんていらなかった





***



「来た」


優羽は腰掛けていたベッドから勢いよく立ち上がると、バッグを引っ掴んで外に出た。


「タイミングバッチリ……だな、もしかして探知してた?」

「どうでしょう?」


 優羽は意味深に笑う。
 が、すぐに破顔して訊ねる。


「……今ってこんにちは、かな?」

「おはようでいいんじゃない?」

「おはよ!」

「おはよう」


 じゃあ、行くかと紫音が先に歩き出す。
 その後を早足で追っかけて、横に並ぼうとした。けれど、そんなことをする勇気が出なくて、結局一歩だけ後ろに身を置いた。


なんでこのタイミングで、紫音の大事な人を思い出しちゃうかな……。


 優羽はガックリと肩を落とす。

 たまにのデートの時ぐらい恋人気分にさせてくれたっていいように思えるのだが、優羽の頭の中に住み着いた“紫音の大事な人”はそれを許さない。

 頭の中の存在が紫音の隣を歩かないで、そんな風に言っている気がした。

 会ったことも見たこともないというのに。