こんな能力(ちから)なんていらなかった



 紫音はよかったと呟いて立ち上がる。


「帰るかな……」

「帰っちゃうの!?」

「どれだけ帰らせたくないんだか——」


 紫音は呆れたような、でも嬉しそうなそんな笑みを見せる。

 そんな顔されたらドキドキしてしまう。紫音が自分に恋愛感情などないと知っていても。

 期待してしまう。


「……そうだ!朝御飯!」

「は?」

「朝御飯食べてってよ!」


 一瞬悩んだ顔をした紫音だったが、すぐにダメだ。って苦笑した。


「俺仕事溜まってるから」

「そうなの!?」


 優羽は眉を垂らす。


「忙しいのに迷惑かけちゃってごめん……」

「別に?逆にストレス解消になったし」


 そう言って紫音は優羽の髪を一房掬ってキスを落とす。


「……大事な人が泣くよ?」

「いや……今頃喜んでるよ」


 どういう意味か分からなかった優羽は紫音のことを困惑した視線を投げる。

 紫音はニヤッと笑うと立ち上がって伸びをした。

 帰るんだ。
 そう思ったら気分が沈んだ。
 今朝は今までにないほどすっきり起きれたというのに。

 上げて落とされた、そう思った。