こんな能力(ちから)なんていらなかった



 紫音は片眉あげると、「鴉野郎が帰ってきたら困るだろ」と答えた。


「流が関係あるの?」


 再び意味が分からないという顔をした優羽に紫音は溜息をつくと、グッと腕に力を入れた。


「なんで帰っちゃうの!?」

「逆に聞くけど……」


 紫音の冷たい目が優羽を見据える。


「何で帰ったらいけないの?」


 優羽は呆然としたまま紫音を見る。

 紫音は優羽の手から自分の腕を抜こうとする。


「や、やだ……!」


 優羽はぎゅうと紫音の胴体に抱きつく。


「帰っちゃやだ……」


 必死に縋り付く。

 何でか分からない。
 けど、今この手を離したくなかった。
 この手を離したら後悔する気がした。


「いやなの……」


 弱々しい声で縋り付く優羽に紫音は眉を下げた。
 そっと紫音の手が優羽の目元に伸びてくる。


「ごめん、意地悪しすぎたな……」


 部屋の中に優羽を押し戻した紫音は入った後、後ろ手でドアを閉めた。