どうやら彼女は、今の自分の状態をよく理解できていない様子。
車を駐車していた場所に辿り着き、早く彼女を車に乗せようとしたが、さっきまでとは違い、やっと自分の今の状態を把握したのか、顔を下に向け気まずそうに話し出した。

「え……でも乗るって言っても……」

どうやら車のシートが濡れてしまうのを、気にしている様子。
どうにか理由を並べ、無理矢理彼女を助手席に乗せようとしたが、必死に抵抗してきた。

「わー!!マジで濡れちまうから!!」

「だからかまわないと言っているでしょう!?いいから乗るっ!」

最後は強引に力づくで彼女を乗せ、ドアを閉める。
そしてすぐに運転席に回り、自分も車に乗り込んだ。
エンジンをかけ、すぐに暖房を回し車を走らせる。社内の会話は少なくて、雨が降りつける音と、普段はいつも気にならないエンジンの音だけが、異様に耳に残る。

こうして彼女の自宅に向かっている途中、何度彼女に気付かれないよう盗み見したことか……。

今までは、彼女と過ごす時間が心地よくて、その心地よさに甘えて、彼女の気持ちを知りながらも会ってきた。
……でも、もうダメだ。
彼女はこんな俺のことを、想ってくれている。
そんな彼女にこのまま自分の気持ちに嘘をついたまま、会っていていいはずなんて、ないんだ――……。

自分の気持ちを伝えたくても、なかなかタイミングがつかめず、気付けばあっという間に彼女の自宅付近に辿り着いてしまった。