そうだ。
今は悲観的になってなっている場合じゃない。
仕事に集中しないと。……それに……。

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「副社長、今日も桜子と会うそうで……」

就業時間終了間近、ちょっとニヤニヤした櫻田さんが、そんなことを言ってきた。
その名前を聞くと、自然と漏れてしまうのは、大きな溜息。

「そうなんだよね……。おかげで朝からリポDにお世話になってきたよ」

溜息交じりに話しているというのに、そんな俺の話を聞きながらも、クスクスと笑いが止まらないといった様子の櫻田さん。

「ちょっと櫻田さん。上司である俺が、櫻田さんの友人のために犠牲になっているというのに、なんで呑気に笑っているかな?」

「すみません、決して悪気はございませんので。……ただ、口ではいつもそんなことをおっしゃっているのに、なんだかんだ言って、ちゃんと桜子に付き合う副社長は大変立派だな、と思いまして……」

いつもに増して丁寧な言葉遣いで話す櫻田さんの言葉は、どこか棘か感じられた。

「……それは、櫻田さんの友人だからね。……下手な断り方なんて、できないじゃないか」

「それはありがとうございます」

そうさ。
櫻田さんの友人だからってだけで、彼女と会い始めたんだ。
だけど彼女と飲むお酒は思いの外楽しくて、櫻田さんの言う通り、口ではさっきみたいなことを言っておきながらも、実は彼女に会うのが少しだけ楽しみだったりもする。