自分でも情けないと思うよ。
こんないい歳した男が、今更片思いとか。

でも彼女になら、ガキみたいな片思いもいいと思っていた。
あの場面を見るまでは……。


あれは彼女が、自宅謹慎処分になってしまった時だった。
彼女の顔見たさにわざわざ会社に呼び寄せた。
案の定、彼女は怒ってすぐさま帰って行ったけど。
でも俺は、少しでもいつもと変わらない彼女の顔を見れて満足だった。
……そう思っていたのに、まさかあんな場面を見せられるとは思いもせずに。

「菜々子……」

愛しそうに彼女の名前を呼ぶ、男性の声。

「けっ、圭吾さん!ここ会社!!会社です!」

そして聞こえてきたのは、大好きな彼女の慌てる声……。
目を疑ってしまった。
抱き合う二人の姿に――……。

「もう黙って。……菜々子とキスしたくてたまらないんだから。……会いたかった」

そう言って彼女にキスを落とす男は、東野君だった――。

「圭吾さん……大好きです」

そんな東野君に答えるように、愛の言葉を口にする彼女。
信じたくない現実。信じられない事実だった。
ずっと東野君は、大貫さんとうまくいっているものだと思っていたのに……。