きっと彼女はそんな俺の気持ちになんて、全く気付いていないんだろうな。

いまだに呑気に豆大福を食べながら、お茶を飲む俺に突っかかってくる彼女を見ると、つい口元が緩んでしまう。

「ちょっと副社長!?私は真面目な話をしているんですけどっ!!」

「はいはい、ちゃんと聞いてるよ、櫻田さん」

「……っ!だから、そう呼ぶのはやめて下さい!!」

バカだな、本当に……。
そんなこと、やめるわけないだろ?

「さて、と。美味しい豆大福も食べたし、そろそろ会議の時間じゃなかったっけ?」

さっきまであんなに突っかかってきていた彼女の表情が、一気に秘書の顔に変わった。
そして思い出したように慌てて手帳を広げる。

「はい、すみませんでした。すぐに第一会議室へ向かって下さい」

「了解!」

頭の回転が早くて、秘書としてのスキルも申し分ない。
なのに、時々いちいち可愛いことしてくれるんだよな。普段の彼女からは想像もつかないことを――。


最初はただの興味本位だった。
急遽産休に入ってしまった橘さんの後任がなかなか決まらなくて、困っていた時、そんな橘さんから紹介されたのが櫻田さんだったから……。
それだけの理由だった。一度退職した彼女を復職させたのは。