「なんで?みんな誉めてんだから喜べよ、櫻田」


しれっとそう 言うのは私の前に座っている藤原さん。


「素直に喜べませんよ」


「えー。でも本当に櫻田さんって凄いんですね。尊敬しちゃいます!」


「だろ?」


そう言って無駄に眩しい笑顔を振り撒いているのは、藤原さんの隣に座っている中山さん。

みんなと一緒に来たのは近くの定食屋。座敷の席に案内されたものの、七人で来た私達は四人がけの席に別れることになり、なぜか自然とこのグループに別れてしまった。


えっと...。これって何かの拷問ですか?

そう言いたくなってしまうくらい、なんて居心地の悪い席。

って言うか藤原さん!
中山さんとの距離近すぎじゃないですか!?って突っ込みたくなるくらい二人の距離は近い。
別に藤原さんのこと好きなんかじゃないのに、モヤモヤしてしまう。


「お待たせいたしましたー」


やっと料理が運ばれてきて、一安心。


「お箸どうぞ」


「サンキュ」


すかさず中山さんは割り箸を取り、藤原さんに渡す。そしてそっとソースも。
藤原さんが頼んだのは豚カツ。
うーん...。このさりげない女子力見習いたいところだわ。

そんなことを思っていると差し出された割り箸。


「櫻田さんもどうぞ」


「あっ、ありがとう」


私にまで気を遣ってくれる始末。


割り箸を割り、頼んだしょうが焼き定食を食べ始める。みんなそれぞれ会話しながら食べていて、中山さんと藤原さんはこんなところでも仕事の話をしている。

中山さんって可愛いし、いい子なんだよ、ね。
それに気難しい藤原さんとうまく仕事をしているんだもの。女は受け付けない営業部にも馴染んでるみたいだし。
うん...。いい子なんだよ。なのになんで藤原さんなんて好きになっちゃったんだろう。
中山さんなら他にいくらでもいい人がいるのに...。


「...櫻田?聞いてんだけど」


「...えっ?あっ!すみません、聞いてませんでした」


どうやら藤原さんが何か聞いてきたみたいだけど、他のことを考えていた私の耳には届いていなかった。