「でも圭吾が異動してきて、櫻田さんと別れたって聞いて。正直チャンスだって思いました。櫻田さんにはあんなこと言ったけど、やっぱり好きな気持ちはそう簡単に消えてくれなくて、ちょっぴり後悔していたところだったんで。それにまさか圭吾が異動してくるなんて、夢にも思わなかったから…。
昔の夢だった一緒に仕事をするってことを叶えられて、昔のように色々な話をするようになって。…また昔みたいな関係に少しずつでもいいから戻れたらいいなって思ってました。
だけどだめですね。10年の月日は早く感じたけど、お互い昔のことばかりで未来に繋がらなかった。私も圭吾も昔の思い出に縛られているだけだったんです。それに圭吾の心の中に私よりももっと大きな存在がいるってことにも、嫌でも気付いちゃいましたしね」

「え…」

「櫻田さんだって分かるでしょ?好きな人のことだったら。…彼が今なにを思ってどんな考えを持っているのか。…好きになりすぎるのも問題ですよね?そんなことまで分かっちゃうんですから」

その時ちょうど運ばれてきたデザートと珈琲。
話し終えてすっきりしたように珈琲を飲む大貫さん。

「それでもやっぱり櫻田さんに負けたのかって思うと悔しかったですよ?圭吾を変えられた女は私一人でありたかったから。…でも今の私には夢だった大好きな仕事があります。だからもう過去にこだわるのはやめて、、前を見て歩いてます」

大貫さんの話を聞いて情けなくなってしまった。
私は全然なのに。…大貫さんは私なんかに負けたりなんてしていないわ。

「すみません、長々と話しちゃって。せっかくですからケーキ食べましょうか?」

そんな大貫さんに伝えずにはいられなくなった。