「急な電話が入った」と言って食事を開始してすぐにレストランから出て行った副社長。
まさか本当に電話がかかってきたものだと思っていたけど、ここまで戻ってこないと徐々に疑っていく。
もしかしたらハメられたんじゃないかって。

「…遅いですね、副社長」

そんな中、先にこの気まずい沈黙を破ってくれたのは大貫さんだった。

「そうですね…」

きっと大貫さんは副社長は電話対応してるって信じてるんだろうな。
そんな大貫さんに言えないわ。きっとさっきのは自作自演でしたよ。なんて。

「……あはは、本当、なんかごめんなさい。櫻田さんにしたら私の顔なんて二度と見たくなかったですよね?」

「え…?」

急にそんなことを言い出した大貫さん。思わず見つめると、誰が見ても分かるくらい笑ってる。…無理に。

「…でもごめんなさい。私もできれば一生櫻田さんにだけは会いたくなかったです」

そう言うと真っ直ぐ私を見つめてくる。
その瞳に緊張感が襲ってくる。
そして大貫さんはナイフとフォークを置き、ゆっくりと話し始めた。

「…それでもこうやって会っちゃいました。……なので話をさせてもらってもいいですか?」

「……は、い」

緊張はピークに達し、声が震えているのが分かる。
返事をしたくせに、なぜか大貫さんの話を聞くのが怖い。
何を言われるのか分からないから?