それでもどうにか大きく深呼吸して、次来た人の対応に備える。

「驚いた?」

急に聞こえてきた声。それはさっきまで会場の中にいたはずの副社長だった。
その顔はすっかり仕事モードではなくなっている。

それを見てすぐにピンときてしまった。

「…まさか副社長の仕業ですか?」

疑いの眼差しを向けているというのに、副社長は嬉しそうで待ってましたと言わんばかりに話し出す。

「ピンポーン!さすが櫻田さん!よく分かったね!どうだった?久し振りに会うライバルとの再会は」

ライバルって…。

「今日の夜の会食の相手、大貫さんだから。騙してごめんね?楽しみにしているよ」

一方的にそう言うと副社長はまた会場内へと戻っていく。

楽しみにしているって、なにをよ。

意味が分からない。今更私と大貫さんを会わせてどうしたいのよ。

副社長の言動の意味が分からなくてまた心が乱れる。
それでも仕事は待ってくれない。
そんな思いを抱えたまま業務をこなしていった。

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「……」

「……」

綺麗な夜景が見えるホテルのレストランで、さっきからカチャカチャとナイフとフォークがお皿に当たる音だけが響く。

夜景を見ながら、目の前には私と同じように気まずそうに食事をしている大貫さん。
私の隣にいるはずの副社長の姿はない。それもだいぶ前からずっと。