「…さっきの続きだけどさ」

「うん?」

「剛さんはあんな風に言っていたけど、私はなにがあってもあなたの味方よ?…私は間違っていないと思うし。男には男にしか分からないことがあるのかもしれないけど、それを言ったら女だって同じでしょ?」

橘さん…。

身体の向きを変え、上ベットで背を向け寝ている橘さんを見つめる。

「…妥協なんてしちゃだめよ?今までのようにあなたが思ったまま感じたまま行動してね。…私、あなたの考え方ってけっこう好きなんだから」

背中だけでも分かる。きっと今橘さんは恥ずかしさでいっぱいなんだろうなって。

「…ちょっと何か言いなさいよ。私一人で話していてバカみたいじゃない」

そう言って私の方を見る橘さん。
つい笑ってしまった。嬉しくて。

「ごめんなさい。…私も好きよ?そんな橘さんが」

お返しとばかりにそう言うと「なに言ってるのよ」とすぐにまた私に背を向ける橘さん。

「…ねぇ、そろそろお互い名前で呼び合わない?」

つい癖で苗字で今まで呼んでしまっていたけど、もう橘さんじゃないんだし。

「…亜希子って呼んでもいい?」

「……別にいいわよ、菜々子」

少ししてから聞こえてきた私の名前を呼ぶ声。

名前で呼ばれただけなのに、むず痒い。

「なんか照れちゃうね!名前で呼び合うだけなのに」

「…えぇ」

いつの間にか亜希子はまた私の方を向いていて、お互い笑ってしまった。

「いやね、私達。もう30過ぎたいい歳なのに」

「あら、まだまだ30代よ。…それにこういうのはいくつになっても変わらないでしょ?」

「…それもそうね」

そうよ。いくつになっても嬉しいって思ったり、悲しいって思う気持ちは変わらないのよね。