「違うっ…!」

思わず声を張り上げ、立ち上がってしまった。

「…違います。菜々子とは真剣に付き合ってますので。それと今度結婚します」

「ふ~ん…やっぱりそっか」

今目の前にいるのは上司でも副社長でもない。ただの男だ。

「悪いけど俺、そう簡単には諦められそうにないんだ。それに恋愛は自由だろ?…辞令は来月から。楽しみにしているよ、また君と仕事ができるのを」

それは宣戦布告とも取れる言葉。

「…すみませんが、そう簡単に彼女を取られるほど軟じゃないので」

なら受けて立つまでだ。もう絶対菜々子を離したりするものか。

「ひゅ~!言うね東野君!」

「…失礼します」

一礼し、そのままドアの方へと向かう。

そしてドアノブに手を掛けようとしたとき背後から聞こえてきた声。

「俺も負けないよ?」

咄嗟に振り返ってしまった。
副社長はまたあの読めない笑顔を見せている。

「楽しみにしているよ。…色々とね」

色々か…。

「失礼します」

そのまま部屋を出た。そしてゆっくりとエレベーターの方へと向かう。

まさか藤原の言ってた通りだったとはな。さすがじゃないか、橘の女の勘ってやつは。