左右に揺れる自分の身体。
ダメだ。諦めよう。


「分かりました。買ってきますので辞めて下さい」


副社長はこんな人だ。
一度言い出したら聞かない人。

ならさっさと東京バナナを買ってきて仕事をした方がいい。


「本当?いやー悪いね、櫻田さん」


「いいえ?全然ですよ」


絶対悪いね。なんて思ってもいないくせに!
...なんて絶対に言えないけど。


「じゃ、これお金ね。全種類買ってきて」


「全種類ですか!?」


「うん。余ったら秘書課のみんなで食べるといいよ。だから箱で買ってきてね」


「はぁ...」


お金を受け取ると上機嫌でさっさと副社長室へと戻って行った。


思わず溜め息が漏れてしまう。

...会社の次期トップが東京バナナ...。

預かったお金を見つめてしまう。


「大丈夫なのかしら。...うちの会社」


そんなことを呟きながらも身支度を整え、部屋を後にした。


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ーーーー


「...疲れた」


あれから駅にまで足を伸ばし、東京バナナを買ってただ今会社のエレベーター待ち。

こういう時に限ってエレベーターってなかなか来ないものなのよね。


「...あれ?櫻田?」


...ん?この声って確か。
振り返り見ると


「藤原さん!」


やっぱり藤原さんだった。


「やっぱり櫻田じゃん。久し振り。同じ会社なのに久し振りっつーのも変だけど」


「でも本当に久し振りですね。確かに部署が違うと全く面識なくなっちゃいますもんね。藤原さんは外回りだったんですか?」


「あぁ。暑い中疲れたさ。...櫻田はサボりか?」


私が手にしている袋を見ながらそう話す藤原さん。


「違います!」


でもそう言いたくなる気持ちも分かる。
だって袋にはでかでかと『東京バナナ』って書いてあるんだから。


「副社長様に頼まれたんですよ。なんでもこれを食べないと仕事スイッチが入らないようなので!」


「...そうなのか。なんか大変そうだな、櫻田も」


「まぁ...」


ちょうどエレベーターが到着し、藤原さんと二人乗り込む。



「あっ、そういえばこの前家に来てくれたんだって?亜希子から聞いたよ」


「はい。...藤原さんはいませんでしたけど。光太君可愛かったです」


「そうだろ?将来は絶対ジャニーズだろ?」


「えっ!気が早くないですか!?」


ジャニーズって。