「それからは、文の遣り取りや帝には悪いが、時おり女御の元を訪ねたりそれはよくしてもらったよ」



杯の酒を一気に煽る。



「それから生まれたらお子は本当に本当に愛らしくて、自分の子のようで・・・いや、将来この子を貰いうけようと──────」





空になった杯に酒を注ぐ妻の顔を見ると、いたって笑顔である。やはり、焼いてはくれぬか。つい女房を身ごもらせてしまった時も一番に喜んでくれた、本当に良くできたひとだから・・・?




「当然です、女御様があなた様を相手にするはずありませんわ」




「歳も女御様より四つも下で、帝という優れた方が側にいてどうしてあなた様を好きになりましょう・・・それよりも」



一気にまくし立てる妻の様子に凄みが増していく。




「姫宮様にその様な不埒な想いを抱いていたなど、許せません」




しまいには大きな瞳に涙を溜める妻に、式部郷も流石にしまったという顔をする。




「不埒もなにもありはしない、女御様が姫宮を連れて参内されてから、直ぐに貴女に出逢ったのだから」




そう、出産のために里に下がっていた女御が再び内裏に戻った時、女御の側にはまだ若いと言うより幼いという方が似つかわしい新しい女房がいたのだ。それこそが、只今隣で涙を溜めている妻なのだ。



「っそ、その様な事で誤魔化されません。改めて昔の恋のお話などされずとも、あなた様が女御様に想いを寄せられていたことなどずっと知っておりました」



言い切った妻の瞳からは、溜に溜めた涙がついに零れ落ちた。



出逢って八年になる。




お互いに子供から大人へと成長したが、妻の泣き顔は出会った頃から何も変わらない。




泣かまいと我慢して、限界まで涙を溜めて強がるのたけど、ついには涙を零すのだ。




この泣き顔が可愛くて、出逢った頃はいつもいつも喧嘩して何度泣かせた事だろう。これを言ったら妻はまた怒るだろうか。




そうしか、接せない私を見て女御は呆れていた。



『素直に思ったままを伝えればよいのですよ』



そう、苦笑する女御は本当に優しかった。妻に出逢ってから女御への想いは憧れへと変わっていた。




その眼差しを妻は勘違いしていたのだろう。



やはり、可愛いひとだ。