魅惑の果実

グッと唇を噛み締めると、少し血の味が口の中に広がった。


桐生さんが言ってる事は分かる。


私にだってきっとどうしようもない。


桐生さんがいなかったら私も売られていたのかと思うと、歯痒くて苦しくて悲しくて……とにかく悔し涙が止まらなかった。



「この人たち……桐生さんが、撃ったの……っ?」

「俺は小西の肩に二発食らわせただけだ」



え?


肩?


振り返って倒れている小西さんを見ると、身体を微かに動かしながら息をしていた。


気絶してるだけ……?



「じゃあ……あそこに倒れている外国人は……」

「部下が撃った」



倒れている外国人は頭から血を流し、目を見開いたままピクリともしない。


その目が私を見ているようで、全身がゾクリと震える。



「蓮見(はすみ)、莉乃の縄を解いてやれ」

「畏まりました」



私の手足の自由を奪っていた縄を、蓮見さんはナイフでいとも簡単に切り離してくれた。



「ありがとうございます」

「桐生様の指示に従ったまでです。 桐生様、お車を回して参ります」



そう言うと蓮見さんは暗闇の中に姿を消してしまった。