魅惑の果実

桐生さんの温もりが頬に伝わる。


桐生さんの胸元に顔を埋めた途端、情けない声と一緒に涙がボロボロと零れ始めた。


この大きな背中に腕を回したい。


しがみつきたい。


そう出来ないことがもどかしかった。



「桐生様、お怪我はございませんか?」

「あぁ、問題ない」



顔を上げると、いつも桐生さんの車を運転している男性が立っていた。



「気が済んだか?」

「え? あ! うん……ごめん……うあっ!!」



身体を離そうとしたら足の縄にキュッと止められ、転けそうになる。


桐生さんに腰をだかれ、今更ながらドキドキした。



「お前という奴は、困った奴だな」

「ごめんなさい……あっ! 中に女の子たちがっ……」

「それなら心配するな」



良かった……中の子達も助けてくれたんだ。


ホッとした。



「売られちゃった子達は……?」

「そこまで面倒をみてやる覚えはない」

「でも! その子たちの家族とか、友達とかきっと心配してるよ!!」

「俺は慈善活動をしているわけじゃない。 売られた奴らは運が悪かっただけの事だ」



久しぶりに見た。


桐生さんのこの鋭く冷たい目を……。