魅惑の果実

小西さんの隣に座ると、顔を覗き込まれ首を傾げた。



「今日はご機嫌だね」

「え? そう、ですか?」



ヤバイヤバイ。


まだ顔がにやけてるんだ。



「それより今日はどうしたんですか?」

「連絡なしにきたらまずかった?」

「いえ! そういう意味で言ったんじゃないです。 だいたい連絡くれるから……ちょっと何でかな?って思っただけです」

「相変わらず敬語が抜けないね」

「え!? だって今は仕事中ですから」

「莉乃は仕事じゃない時も敬語だよ」



そうかな?


……そうかも。


プライベートで小西さんと会っても敬語だ。


小西さんに対してタメ口って違和感あるんだよね。


桐生さん相手ならタメ口の方が楽なのに……。



「まぁ、そのうち敬語もなくなるかな?」

「あはは……」



何故か「そうですね」って言葉が出てこなかった。


タメ口を聞ける気がしない。



「莉乃に聞きたい事があるんだけど……」

「? 何ですか?」

「このお店に桐生っていうお客さん来てるよね?」