魅惑の果実

美香ちゃんは私の隣に座りなおすと、私の肩を抱き寄せた。



「美月に桐生さんって名前を聞いた時はまさかと思ったけど、私の予想は当たってたんだね」

「…………」

「私も話してみた方がいいと思う」

「美香ちゃんまでっ、そんな事、言わないでよ……っ」

「だって……美月は知らないだろうけどさ、オーナーってすっごい怖い人で有名なんだよ? 私も何度か会った事はあって、毎回背筋が凍る様な感覚で、逆らえない雰囲気を纏った人だなって思った。 それなのに、さっきのオーナーは違った。 あんなに優しい顔をしてるところ初めて見たよ」



止めて……。


そんな事言われたらあの時の決心が揺らいでしまいそうになる。


自惚れてしまう。



「ここで再会したのも何かの縁っしょ?」

「大雅さんが無理矢理仕組んだんじゃないですか!!」

「さっきのはそうだけど、美月ちゃんがここで働く事になったのは本当に偶然。 遅かれ早かれ桐生とは鉢合わせてただろ?」



何も言い返せなかった。


ここで働く事になったのは本当に偶然。


美香ちゃんが働いてたお店のオーナーが桐生さんだとは本当に知らなかった。


面接だって店長としただけ。


オーナーの事なんて少しも気にならなかった。