魅惑の果実

久しぶりに口にした名前。


鼻の奥がツーンとなった。



「美月さん!!」

「美月!!」

「え?」



飯田店長と美香ちゃんの声が重なって驚いた。


そして思わず間抜けな声が漏れた。



「え?じゃないよ!! オーナーすみません! まだ入店したばかりで……」

「いや、いい。 美月にはそれでいいと言ってある」

「え? あ、え? 美月さんの事ご存知で……?」

「あぁ、よく知ってる」



“よく知ってる”その言葉を聞いて妙に恥ずかしくなった。


別に深い意味はないんだろうけど、意識してしまう。



「俺は帰る」

「は? 飲んでけよ」

「お前ほど暇じゃない。 美月、他の席で変な飲み方はするなよ」

「しません!!」

「やっぱ美月ちゃん最高! 桐生にそういう態度取れんの他にいねぇよ」



桐生さんはフッと笑うと何も言わずに部屋を出て行った。


その後を飯田店長が慌てて追いかけて行った。


私は桐生さんが出て行ったドアから目が離せなかった。