桐生さんと別れて以来、誰とも付き合っていない。


そんな余裕がなかったって言うのもあるけど、一番はどうしても桐生さんの事が忘れられないから。


あの日、指輪だけは置いてこれなかった。


もう付ける事はないけど、大事にしまっている。



「あの、総務部の神楽ですけど、松岡さんってどちらにいらっしゃいます?」

「あちらのショートカットの方です」



受付の人の手先を追った。


その女性を見て一瞬頭が真っ白になった。


何で?


何で此処にいるの?


ゆっくりと近付き、直ぐそばで足を止めた。



「咲さん……」



咲さんは立ち上がり、信じられない事に頭を下げた。


綺麗なのは相変わらずだけど、あの勝気な雰囲気がなくなっている。



「突然押し掛けてごめんなさい。 話がしたくて……」




何を今更……。


今更何話すって言うの?



「あまり時間は取れませんけど……」

「ありがとう」



何故だか断れなかった。