魅惑の果実

食事の手を止め外を見ると、さっきよりも雨が強くなっていた。


透明の窓ガラスに無数の滴がついている。



「さっきまでは小雨だったのにね」

「そうですね、明日も雨ですかね?」

「予報では明日も雨みたいだよ。 雨は嫌い?」

「……好きじゃないかもしれません」



雨の日は昔の事を思い出す。


嫌な思い出。


その事を思い出すから雨の日は気分が優れなくなる。


小西さんとの同伴中なのに、こんなテンションじゃ申し訳ない……。


そう思うのに気分を無理矢理晴らす事が出来なかった。



「食欲ない?」

「いえ、そんな事ないです。 小西さんも食べてますか?」

「莉乃ちゃんよりは食べてるよ」

「私も小西さんに負けないくらい食べなきゃ!」



小西さんが笑みを零しホッとした。


お酒を飲みながら美味しい食事をしていると、お店にいる時よりも話が弾む。


誰かと一緒にいる方が落ち着く性質だから、たとえ相手がお客さんだとしても楽しかった。