魅惑の果実

エレベーターを降り、タクシーに乗り込む小西さんを見守った。


タクシーの後部座席のドアが閉まろうとして、それを小西さんが手で止めた。


忘れ物かな?


そんな呑気な事を考えていると、腕を掴まれ引き寄せられた。



「こ、小西さん!?」

「……ごめん、なんだか名残惜しくなってしまって……」



何かあったのかな?


いつもの小西さんらしくない。



「また直ぐに会えますよ」

「そうだね。 そうだ、今度食事に行かない?」

「喜んで!」

「良かった。 日程はまた今度決めよう」

「はい、楽しみにしてます」



笑顔を向けると小西さんはホッとした顔をして、今度こそ後部ドアが閉まった。


小西さんの乗るタクシーが見えなくなるまで見送った。


小西さん、何か嫌な事でもあったのかな?


今度それとなく聞いてみよう。



「あっ……」



振り返ると直ぐ後ろには桐生さんが立っていた。


その隣には勿論咲さんも……。