魅惑の果実

思わず立ち上がって驚く私とは打って変わって、桐生さんは足を組んで座ったまま微動だりしない。


今までで一番酷い温度差かも……。


まぁそんな事はどうでもいい。


そう思ってしまう程、感動していた。


楽しく豪快に飛び跳ね、泳いでいる大きなクジラ。


クジラを見たのは初めて。


というか、水族館とかに行った事がないから、クジラどころか殆どの海の生き物を生で見た事がない。



「う、うわっ!?」



船が揺れ、転けそうになったが桐生さんに腕を引かれ椅子にストンとお尻をついた。



「だから座っていろと言っただろう」

「こんなに凄いのにジッと座ってなんかいられるわけないじゃん!!」

「時期的にもう少し遅い方が見れるかと思ったんだが、運が良かったな」



それでわざわざクルージングを?


桐生さんの口に出さない優しさを感じた。


今日は感じてばかり。



「連れてきてくれてありがとう」

「はしゃいでいるお前を見ているのは嫌いじゃない」



私もそうだよ。


優しい眼差しで見つめてくれる桐生さんが好き。


きっと、私だけに向けてくれる眼差しだから。