魅惑の果実

あと少しで寮に着くというところで、見慣れた車が止まっていた。


心臓がざわざわし始める。


足が震える。



「美月?」



明日香はクルッと振り返って私を見ると、不思議そうな顔をした。


どうしよう……胸が苦しいよ……。


車の後部座席からゆっくり降りてくる姿を見て、涙が溢れた。



「美月!? どうしたの!?」

「っ……」



駆け寄って来てくれた明日香に答えることが出来なかった。


嗚咽が止まらない。


上手く喋れない。



「お前は本当によく泣くな」

「っ……うる、さいっ!!」



人の気も知らないで涼しい顔をしてる桐生さんがムカつく。


何しに来たの!?


私よりも咲さんを取ったくせに……っ。


あの日結局帰ってこなくて、まともに連絡もくれなかったくせにっ!!



「遅いよ……っ!!」



文句も含め言いたいことは山ほどあるのに、それらを押しのけて出て来たのは、寂しくて仕方が無い私の素直な感情だった。