魅惑の果実

連れて来られた場所は某有名ホテルだった。


移動の車の中で繰り広げられた家族の会話の輪に私はいなかった。


いないことが当然の様に交わされる会話。


あまりの徹底ぶりに、逆に気持ち良くも思えた。


こういうのもDVって言えるんじゃないの?


世の中を良くする為に働く政治家が聞いて呆れる。


欲と見栄、傲慢……薄汚い空気に包まれているパーティー会場。


みんな安っぽい笑顔を浮かべていて、気持ちが悪い。


父も義母も気持ち悪い人間たちの一員だ。


大事そうに両親の間に挟まれている美羽。


それを後ろから眺める私。


もう、ばっくれたい。



「神楽さん、お久しぶりです」

「これはこれは、ご無沙汰しております」



何人の人と挨拶をすれば気が済むわけ?


関係ない私でさえ気が遠くなりそう。



「あ! 美月ちゃんじゃん!」



えっ!?


顔を上げてギョッとした。


確かこの人……。



「せ、誠治!?」

「俺のこと覚えててくれたんだ?」



そうだ。


この人のお父さんも政治家だった……すっかり忘れてたよ。


まさか会うことになるなんて思ってもいなかった。