魅惑の果実

クローゼットの扉のところには、パステルグリーンのワンピースがかけられていた。


花柄で袖とスカートの部分にレースがあしらわれていて、いかにもおしとやかなワンピース。


私はこれを着ておとなしくしていればいいって事だよね。


毎回思うけど、本当にくだらない。


ムカムカする。


ワンピースの下に置かれた箱を開けると、白のサンダルが入っていた。


これも普段自分じゃ選ばない様な靴。


私はただの人形でしかない。


鞄に入れていたケータイが震え始めた。



「もしもし」

「家には着いたのか」

「うん」



桐生さんの声にホッとする。


詳しい理由は話してないけど、家に帰るのが憂鬱だという話はしていたからか、心配してかけてきてくれたのかもしれない。



「何かあれば直ぐに連絡をしろ」

「うん、ありがとう。 桐生さんの声が聞けたから、今日はなんとか乗り切れそう」

「声くらいいくらでも聞かせてやる」



欲しい言葉を欲しい時にくれる。


不思議な人。



「もっと聞いてたい……電話じゃなくて、もっと近くで……」

「だったら早く帰ってこい」



帰る場所がある。


そう思うだけで強くなれる気がする。