魅惑の果実

本当に直ぐに美香ちゃんは戻ってきてくれた。


その頃には呼吸も涙も少し落ち着いていた。



「うちに来る?」

「……いいの?」

「何遠慮してんのよ。 美月も可愛い妹なんだから、いいに決まってるでしょ」



美香ちゃんの言葉が素直に嬉しかった。


家族ですら、私の事をこんな風に言ってくれる人はいない。


弱ってる時だからか、自分でもビックリするくらい涙が出てきた。



「もう、泣かないの」

「ごめっ……」

「タクシー乗ろう」



私は美香ちゃんと手を繋ぎ、少し歩いた。


美香ちゃんがタクシーを止めてくれて、二人で乗り込む。



「○○の交差点辺りまで行って下さい」



タクシーが動きだし、ボーッと外を眺めた。


え?


嘘、あれ……桐生さん!?


振り返りよく見たが、そこに桐生さんの姿はなかった。


見間違い……。


そうだよね、追いかけて来てくれるはずないよね。


胸が苦しい。


潰れてしまいそう。


桐生さん……っ。